高齢ワンちゃん、ネコちゃん③ ~僧帽弁閉鎖不全症~
人よりもワンちゃんやネコちゃんの方が歳を取るのが速いというのは周知の事実です。平均して15年ほどしか生きない彼らが、人間と同じように歳をとるはずがありません。「光陰矢のごとし」は英語で「dog year」と表現されるように、ワンちゃんの歳の取り方は人の7倍だとか、最初の一年で人で言う成人、それから1年に4歳ずつ重ねていくなどと言われます。
さてこんな風に歳を取るのが速いワンちゃんネコちゃんなので、病気の発症は早く、また当然進行は速くなります。しかも彼らは本能的にしんどいとかつらいことを隠そうとするので、飼い主もその変化に気付きづらく、かなり病状が進んでから受診に踏み切る方も少なくありません。
そうなるまで放っておいたがために壮絶な末路をたどることになるのが、僧帽弁閉鎖不全症です。
現在日本で飼われているワンちゃんは圧倒的に小型犬が多いです。その小型犬は、年齢を重ねると僧帽弁閉鎖不全症という疾患に陥りやすい傾向にあります。簡単に言うと心臓の中を血がうまく流れず、逆流してしまうのです。その結果、心臓に負担がかかり、密接にかかわっている肺にも負担がかかって水が溜まってしまいます。また心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしているので、ここが悪くなるとすべての臓器に影響します。腎臓への血流量が減って腎不全に進展したり、肝臓に血がうっ滞すると肝障害や腹水貯留の原因にもなります。元は心臓だけが悪かったのに、亡くなる直接の原因は肺水腫だったり腎不全だったり肝不全だったりと様々です。
初期症状はガーガーという咳と、呼吸回数の増加(ハァハァするなど)や散歩を嫌がること、また食欲の低下です。咳は朝方に多いと言われます。若いころはあんなに元気だったのに最近は散歩を嫌がるようになって…とか、昔からすぐに息が上がってハァハァしていたがこのところ顕著な気がする…ということで検査をしてみると、実は心臓が原因だったというのは診察現場で良く見られます。経過が長くなると、腹式呼吸や腹部膨満、全身に酸素共有が追いつかずチアノーゼ(舌の色が青くなる)や、喀血(薄い赤色)、急に糸が切れたようにパタッと倒れるなどが挙げられます。
聴診と、必要であればレントゲンや心電図、超音波検査などで診断します。
この病気もまた、ほとんど治るものではありません。外科的に手術を行う方法が無いことは無いですが、現状ではあまり一般的ではありません。酸素吸入や投薬による心臓負担の軽減と、運動(興奮)制限などで悪化を抑えながら様子を見るしかないのが現状です。心臓の負担軽減のために飲み始めた薬は一生飲み続けなければなりません。
早期発見と早期治療(投薬)開始が大切です。日々の変化を見逃さず、些細なことでもご相談ください。